この研究室に興味のある学生さんへ
(English version here)

ここでは、研究室（特課研、大学院）への所属に興味のある学生さんに向けて、この研究室における研究の方向性、教員と学生との関わり方、成長するためにぜひ取り組んでほしいことを紹介します。この研究室への所属に興味をお持ちの方は、まずはこちらを通して読んでみてください。研究室が自分に合っているかを判断する参考になれば幸いです。

とはいえ、実際に話してみないと研究室の雰囲気は分かりにくいものです（以下では真面目なことを書いていますが、日々ずっとこんなに真面目なわけではありません）。もっと具体的な研究内容や実作業について知りたい方もいると思います。研究室への所属を検討している方は、ぜひ一度お話ししましょう。遠方の方はオンラインでも対応できますので、気軽にご連絡ください。我々の連絡先はこちらです。東京科学大の学生の方は、Science Tokyo Slackでも声をかけていただけます。

1.  この研究室の研究について

惑星形成と、その環境である原始惑星系円盤について研究しています。究極的には、「多様な組成の惑星はそれぞれいつ・どこで誕生するのか？」「地球のような惑星はどのくらい普遍的に形成されるのか？」といった問いに対して、自分たちなりの答えを導きたい思っています。

我々の研究領域は「天文学・天体物理学・惑星科学」にまたがります。これらの分野がオーバーラップしているところを研究の軸に据えているのが、この研究室の特色・強みです。

我々の研究で特に心掛けていることは以下の2つです：

1. 惑星形成に関わる物理を深く理解する。惑星の起源を理解するためのアプローチはいろいろあります。私たちは、特に物理と理論計算を武器に、あるいは物理にできるだけ忠実に、惑星形成を理解しようとしています。

2. 最新のデータを利用して理論を検証・刷新する。現代の惑星形成研究は恵まれた境遇にあり、系外惑星や原始惑星系円盤の天文観測データは日に日に増え、隕石や太陽系天体の探査からも太陽系形成の貴重な手がかりが得られています。私たちはこれらを十分に活用して、最新のデータから生き生きと裏付けられた惑星形成論の確立することを目指しています。

多くのメンバーは理論を中心とする研究をしています。惑星形成の物理モデルの構築だけでなく、観測データの解析手法（機械学習の手法を含む）の開発にも取り組んでいます。研究室外・学外にいる様々な専門家（天文観測や太陽系物質の分析）との共同研究も盛んに行っています。

研究のより詳細は、このウェブサイトの研究のページ、出版物のページを見てください。これまでの研究室の学生の学位論文題目リストも参考になるかと思います。

研究室の現・旧メンバーや共同研究者が書いた、以下の日本語の解説記事もおすすめです。記事には我々の研究室の成果でないものも多く含まれていますが、これらの記事でカバーされる内容の研究はこの研究室で取り組むことが可能です。

• 原始惑星系円盤
  植田高啓 (2022) 「円盤ミリ波観測から制約する惑星形成論」 遊星人, 31, 68 [pdf]
  奥住聡 (2019) 「ALMA望遠鏡でスノーラインを観る」 遊星人, 28, 285 [pdf]
  森昇志 (2021) 「最新の磁気流体力学の知見に基づいた新しい原始惑星系円盤モデルの温度構造:スノーラインの移動と地球型惑星形成シナリオへの示唆」 遊星人, 30, 148 [pdf] 

• 太陽系・系外惑星
  荒川創太, 深井稜汰, 本間和明 (2022) 「原始太陽系星雲における同位体不均質性から読み解く微惑星・惑星形成史」 遊星人, 31, 50  [pdf]
  大野和正 (2022) 「大気から探る惑星形成：原始太陽系円盤の影による木星大気組成の説明」 遊星人, 31, 131. [pdf]
  大野和正 (2020) 「系外惑星大気中の鉱物雲」 遊星人, 29, 138. pdf
  芝池諭人 (2019) 「ガス惑星周りの巨大衛星形成」 遊星人, 28, 313 [pdf]

• 星形成
  田中圭 (2018)「大質量星形成: 複合的フィードバックの影響」天文月報, 111, 234 [pdf]

2.  この研究室の「指導」方針、教員と学生の関わり方

所属する学生の皆さんには、「自立した専門家」への成長を目指してもらいたいと考えています。「自立する」 とは、自分の仕事（研究）のプランを主体的に考え、チームを主導できるようになることです。「専門家になる」 とは、高度な知識・技術・問題解決能力を身につけ、それらを活かして仕事をすることです。詳しくは次の節を見てください。

学生の主体的な研究を促すため、教員は学生の研究の「指導」（=ある意図された方向に教え導く）をしないようにしています。ではこの研究室の「指導」教員は何かと言うと、皆さんの研究の共同研究者であり、研究生活のアドバイザーです。学生からアドバイスや意見を求められたら、喜んで全力で対応します。自分のしたい研究は何かを常に考え、それ実現するために教員をぜひ使い倒して下さい。自分自身が研究チームのリーダーという意識を持ってもらうため、研究室の学生には教員のことを「先生」と呼ばないようにしてもらっています。

研究室に新たに加わる学生の研究テーマも、教員が一方的に提示するのではなく、本人と議論しながら決めていきます。まずは調べ物やミーティングでの会話を繰り返しながら、自分の興味を明確にしてもらいます。相談を重ねていくと、「こういう研究をやってみると面白いかもしれない」と学生も教員も盛り上がる瞬間が訪れます。この瞬間にたどり着くまで、議論することと能動的にテーマを考えることが大事です。ここの研究室の教員は研究を実現可能でかつ面白くすることが得意です（と思っています）ので、目標さえ決めてもらえれば進め方についていろいろ（要求に応じて）アドバイスします。

3.  「自立した専門家」になるためには？

以下では、「自立した専門家」に成長してもらうために、この研究室で学生に取り組んでもらっていることを紹介します。

(1)  自分の研究を主導（リード）しよう

研究テーマが決まってからは、教員・共同研究者との研究ミーティングをしていきます。これは研究室全体で行うのではなく、学生ごとに行っています。最初のうちは週1回定例でミーティングを行っていきます。が、学生さんが研究に十分に慣れてきたら、学生自身が必要に応じてミーティングを招集してもらうようにしていきます。定例のミーティングが慢性化するとどうしても、「ミーティングがあるから研究をする」といった本末転倒な意識が芽生えてきがちです。「ミーティングをする必要が生じた結果としてミーティングをする」ような仕組みにしたいと思っています。が、「ミーティングをする必要」は、「進捗」である必要はありません！ 相談したいことが出てきたらいつでも招集してください。

(2) 人と積極的に交流して相談しよう

「自立する」とは、自分の仕事の判断を人任せにしないということであって、問題を1人で抱え込むことではありません。自分で考えた通りに進めて大丈夫そうかとか、複数ある案のどれにすればよいかとか、方針を考えるための材料が足りないとか、研究をしながら判断に困ることはたくさんあるでしょう。そのようなときは、より経験の豊富な研究室メンバー（先輩、ポスドク、教員）に何でも相談してください。上でも書いたように、遠慮せずに研究室の教員をどんどん使ってください。

(3) 成長するための活動を日々しよう

専門家になるためには、もちろん、多くの時間と労力が必要です。社会人が仕事をしている時間くらいは活動に費やす必要があるでしょう。平日の日中、できれば8時間は、「仕事」（=研究・勉強）とそれに関係する人との交流などに費やしてください。遠方に住んでいる学生さんも、セミナーやミーティングのある日は大学の学生室で研究して、学生室や研究室のメンバーと話しましょう。

とはいえ、8時間も同じ研究室にいると、いつかは集中力を失うでしょう。この時間をどれだけ減らせられるかが研究室生活の勝負どころです。仕事に集中できなくなってきたら、教員の部屋の空いているスペースを使って仕事してみてください。教員から圧をかけるわけではありませんが、教員と軽く相談しながら進めることで仕事が捗る場合があります。部屋にお菓子くらいは常時置いておきます。

休みももちろん大事です。夜と休日はできるだけ自分の趣味や休息に使ってください。ただし、夜更かしはできるだけしないようにしましょう！  もちろん健康のためです。

大学・大学院で楽しく成長するための良い方法は、自主的なゼミを開くことです。大学院の講義は幅広いバックグラウンドを持つ院生を対象にしているため、どうしても「広く・浅く」になりがちです。深く・時間をかけて勉強する必要のあることは、ゼミを企画して有志で取り組むとよいでしょう。

(4) プロの研究者・研究世界を知ろう

学生同士で学び合うことも大事ですが、プロの研究者を見て学ぶことも重要です。
研究者はどのように考えて行動しているのか？  どんな経歴を歩んできた・歩んでいるのか？  研究室には教員・ポスドクがいますが、バイアスがかからないように、できるだけさまざまな所属・分野の研究者を知ることが大事です。国内外を問わず、外の大学・研究機関をどんどん訪問してみてください。訪問先の候補を知りたければ紹介しますし、出張費用も研究室の予算で出せる範囲で出します。学会ではできるだけ外の人と話しましょう。研究室やその周囲に外部の研究者が訪問してきたら、懇談する機会に積極的に参加したり、自分の研究の話を聞いてもらいましょう。

この研究室では、それぞれの学生の研究チームに、研究室のポスドク（研究員）、学内の他の教員、学外の研究者などをできるだけ招き入れるようにしています。さまざまな研究者と一緒に研究することで、研究世界は指導教員と研究室だけでないことを知ることができるでしょう。教員が持っていないような多様な視点とスキルを身につけることもできます。研究室のSlackワークスペースには、日本中の多くの研究者にゲストとして参加してもらっています。

(5)  人前で積極的に発言しよう

自分の考えや疑問を言語化したり、人が集まる場でそれを発信することは、専門家やリーダーになる上で必須不可欠です。この能力を伸ばしてもらうために、この研究室では、セミナー・研究会・学会などの場で聴衆として発言（質問やコメント）をすることを強く奨励しています。特に、私の大学院講義や研究室セミナーでは、講義中あるいはセミナー中に発言をすることを単位取得のための必須要件としています。

人前で発言するのが不得意という人の多くは、発言するのが恥ずかしいと感じているかと思います。大丈夫です、経験を積むうちに、恥ずかしいと思う気持ちはすぐに無くなります。最初のうちは自分の質問・コメントが「良い」かどうかなんて気にせず、どんどん発言に挑戦してみてください。

(6)  自分の論文を出版しよう

研究者は新しいことを発見すると、それを論文にまとめて学術誌で発表します。天文学・惑星科学の研究に国境はありませんので、我々は英語で論文を書いて国際学術誌で発表します。学術誌に投稿された論文原稿は、同分野の研究者によって査読され、学術誌への掲載に値する内容があるかを審査されます。一般に、査読に合格し、学術誌に掲載されて初めて、研究成果は学問の記録として残ります。つまり、「論文を出版するまでが研究」なのです。

私たちの研究室では、可能であれば大学院修士課程のうちに、自身が筆頭著者の論文を国際学術雑誌に出版することを奨励しています。査読に耐えうる論文を書くことは、それ自体が非常に多くの勉強要素を含んでいます（研究の背景と目的を自分の言葉で表現する、先行研究を一通り調べる、自分の研究手法を隅々まで把握する、研究結果の重要性を自分の言葉で表現する、これらを英語で書く）。論文を書いてみると「自分の研究のことを自分でよく理解していなかった！」と気づくこともしばしばです。論文を書くことは「すでに理解したことを書く」つまらない作業ではありません。「書くことで理解する」作業なのです。

忙しい修士課程の間に並行して論文を執筆するのは大変なことです。論文を英語で書くとすればなおさらです。修士論文の執筆でも上記のプロセスを経験しますが、修士論文は世界に公開されません。国際学術誌に自分の論文を掲載することのみ、皆さんが頑張って研究したことを学問の歴史に残すことができます。ぜひ、修士課程での論文出版に挑戦してみてください。科学論文の執筆の仕方については研究室の独自の教材がありますので、安心してください。

博士課程への進学を希望する学生さんにとっては、自身の研究遂行能力を論文として「形」にしておくことは、さまざまな経済支援（日本学術振興会特別研究員、学内のフェローシップ）を勝ち取る際にも有効です。また、東京科学大地惑では、自身が主たる著者となっている論文が査読付き国際学術誌に掲載受理されていることが博士の学位取得の条件の1つとなっています。

4. さらなる読み物

研究とは何か、研究者（学生を含む）はどうあるべきか、ということに対する考え方は、研究者によって異なります。個人のウェブサイトで考えを述べている研究者は多くいますので、探して読んでみるとよいでしょう。ただし、「書いてあることが厳しい」と感じる場合もあるかと思いますので、落ち込んだり自信を無くさないように体調の良いときに読むのがおすすめです。「なんとなく学生生活がだれてしまっている」という人は、特に読んでみてはどうでしょうか。

以下では、（体調の良いときに）一読をおすすめしたいウェブサイトを勝手に紹介します。

• 東北大学天文学専攻 富田賢吾さんのページ。富田さんは理論天体物理学者で、世界的に有名な宇宙物理学用の流体シミュレーションコードAthena++の共同開発者です。研究者や大学院生の心構えや必要な能力についての富田さんの意見が具体的に語られています。ここに書かれてあることはどれも重要なことだと私は思っています。ここに書いてあることの全てを満たそうとするのではなく、自分の成長にとって特に有用と思えるところを見つけて大事にするとよいのではないでしょうか。私は「プロ意識・向上心」の記述に共感しました。上記の「自立した専門家」という言葉もそこから拝借しています。

• 京都大学基礎物理学研究所 柴田大さんのページ。柴田さんも理論天体物理学者で、数値相対論による連星中性子星の合体や重力波放出の数値シミュレーションで世界的に有名です。ドイツMax Planck Institute for Gravitational PhysicsのDirectorも務めていらっしゃいます。このページでは、先人の有益な言葉・一文が紹介れされています。私は学生だったときに柴田さんのこのページをたまに見に行って、大学院生・研究者としてのあるべき姿勢を再確認していました。私の好きな「有益な言葉」は「研究会やコロキウムなど人前で発表する時は、10勉強して1話せ」です。